頭蓋顎顔面外科のロールモデル

頭蓋顎顔面外科の醍醐味とロールモデルの紹介

"頭蓋顎顔面外科"ってちょっと「とっつきにくいなあ」とか、「難しそう」という印象がありませんか? 実は、とても奥深くてやりがいのある、面白い分野なのです。このページでは若手からエキスパートまで、さまざまな立場の先生に頭蓋顎顔面外科の魅力や、この分野を選んだきっかけなどについて"生の声"を伝えてもらいました。

頭蓋顎顔面外科医がどのようなことを考えて治療しているかを知っていただくことで、頭蓋顎顔面外科に興味を持つ若手の先生方には頭蓋顎顔面外科医としての一歩を踏み出すきっかけになるとともに、他領域の医療関係の方や一般の皆様にもわれわれの行っている診療についてご理解いただく一助となれば幸いです。

形成外科を極める頭蓋顎顔面外科の領域

橋本一郎先生

橋本 一郎

徳島大学形成外科学

日本頭蓋顎顔面外科学会専門医
(本学会理事、ガイドライン改訂委員会委員長、医療安全委員会委員)
(卒業後30年)

1.はじめに

 数ある診療科のなかで形成外科を選ぶ人は、やはり手術が好きな人でしょう。手術がただ好きなだけでなく、臓器の外科と違って整容面や美容面に関する結果が出ることに興味がある人たちが形成外科を選ぶと思います。頭蓋顎顔面外科は機能回復を行った上に整容的評価が非常に重要であり、最も形成外科らしい分野だと言えます。頭蓋顎顔面外科分野は先天異常から外傷までの広い疾患分野と眼瞼、口唇、耳介、頭蓋、顔面骨と多彩な部位を対象とします。ここでは若い先生に対して私が力を入れてきた主な頭蓋顎顔面外科分野について、その魅力を紹介します。

2.顔面の皮膚悪性腫瘍

 私が徳島大学を卒業して入局したのが、徳島大学皮膚科・形成外科班でした。大きな皮膚悪性腫瘍を手術している病院は、徳島県では主に徳島大学附属病院しかなかったため、多くの皮膚悪性腫瘍の患者が紹介されてきました。悪性腫瘍はその切除方法も大切ですが、顔面では再建手術が整容面において他部位に比べてより重要です。特に顔面における局所皮弁移植では、皮弁の移動方向や移動距離、術後の縫合線の位置、顔面のユニットとサブユニットなど、考えるべきことが多くて形成外科のエッセンスが詰まっています。

3.頭頸部再建

 私が形成外科を始めた当時は、頭頸部再建の分野で有茎皮弁移植術から遊離皮弁移植術へ全国的に切り替わって行く時期でした。症例の多い施設からは、有茎皮弁移植術よりも遊離皮弁移植術の方が術後成績がよいという、今では当然と考えられますが、そのようなデータが発表されていました。全国的にも拡大切除術が全盛のころで、耳鼻科と脳外科と共同手術を行う頭蓋底再建の症例も多く経験することができました。

 また、1990年代はanterolateral thigh flap や 腹直筋穿通枝皮弁、広背筋穿通枝皮弁に代表される穿通枝皮弁が発表され始めた時期でした。現在、これらの皮弁を各種再建に用いていますが、筋肉組織と皮弁組織を自由に配置できることから、特に頭頸部における立体的な再建には大変便利です。大きな再建においても、顔面では整容面が非常に重要であり、形成外科医の力量が試されます。

4.顔面神経麻痺

 顔面神経麻痺では、麻痺の程度が患者によって違い、また患者ごとに治療を希望する部位が違います。また、手術方法も動的再建、静的再建のそれぞれにいくつかの方法があり、現在のところ完全に決め手となる術式は残念ながらない状況です。各患者に適した術式を選んで手術を行うのは難しい作業ですが、非常にやりがいのある仕事です。

5.さいごに

 眼瞼下垂症に対する手術も頭蓋顎顔面外科分野で注目されています。単純に下垂を矯正するだけで喜ばれる患者もいれば、複雑な病態を有している眼瞼下垂患者もあり、奥が深い手術と言えます。

 本学会HPには手術見学ができる施設が掲示されています。手術見学、国内留学、海外留学により他施設で学ぶことで、技術的な向上とともに視野が広がることや新しい人間関係が構築されることが可能です。

 形成外科は整容面を重視すること、再建手技がクリエイティブであることなどの、他科とは違う要素がありますが、それらの特徴が最も現れるのが頭蓋顎顔面外科分野です。ぜひ、本学会に加入して形成外科を極めて、日本頭蓋顎顔面外科学会専門医を取得してみませんか。

最高の頭蓋顎顔面外科治療サービスの提供を目指して

渡辺頼勝先生

渡辺 頼勝

東京警察病院形成外科・美容外科

日本頭蓋顎顔面外科学会専門医
(本学会機関誌編集委員会委員、広報委員会委員)
(卒業後17年)

 最高の頭蓋顎顔面外科治療サービスの提供を目指して私が今まで歩んできた足跡をシェアさせていただき、若い先生方の道標として少しでもお役に立てれば幸いです。

形成外科医への志

 医学は、ヒトの命を救うために発展してきましたが、医学の向上によりある程度ヒトの命を救うことができる現代において、その役割はさらに広がりをみせ、ヒトの生命の質を向上させる外科学の中で最も新しい分野である形成外科が第二次世界大戦後に誕生しました。このような新しい臨床医学分野の形成外科を私が志したのは、医学部4年の臨床講義において当時東京大学形成外科教授であられた波利井清紀先生から、笑いを失った陳旧性顔面神経麻痺の患者さんに笑いを取り戻す遊離広背筋移植術の治療についての講義を受け、大きな感銘を受けたのがきっかけとなります。ヒトの顔は他の動物の顔に比べ最も高度に発達した身体部位の1つであり、狭い範囲に目、鼻、耳、口などの高度な器官が密接に存在しており、個々の器官の機能も重要ですが、個々の器官の形態と相対的な配置も重要であり、まさに「顔の形態」は「顔の機能」そのものとも言えるほど重要な役割となります。ヒトは顔面神経麻痺で笑いを失うことで、顔の形態を損ねるだけでなく、自分の感情を表出することができなくなり、ヒトとして重要なコミュニケーションの手段を失うことになるのです。このような患者さんに笑顔を取り戻すことのできる形成外科医になりたいという志を立て、迷うことなく東京大学形成外科に卒業と同時に入局いたしました。

 2001年に卒業して最初の2年間は、現在の初期研修医制度が導入される前でしたが、形成外科は頭の先から足先までを治療領域とするため、まずは全身を診ることができる基本を身に着けるべく当時スーパーローテーション制度をいち早く導入していた湘南鎌倉総合病院の初期研修プログラムに入り、非常に濃厚な初期研修をさせていただきました。

 2003年入局3年目(現在の研修医制度では後期研修医1年目)は、静岡県立総合病院に派遣され、そこで田中博先生に形成外科の基本手技である縫合技術や植皮術をしっかりご指導いただきました。残念ながら、ここでは当初期待していたマイクロサージャリーを用いた組織移植による再建術も頭蓋顔面骨骨切り術も全くありませんでした。

 2004年入局4年目は、東京大学病院勤務となりました。ちょうど波利井清紀先生が退官され、光嶋勲先生(現広島大学国際リンパ浮腫治療センター長)が教授就任されたのと同時期で、ここで初めてマイクロサージャリー技術を勉強する機会が得られました。また、念願であった顔面神経麻痺に対する遊離広背筋移植術による笑いの再建手術にも入らせていただき、朝戸裕貴先生(現獨協医科大学形成外科教授)から基本をご教授いただきました。

頭蓋顎顔面外科医:クラニオフェイシャルサージャンへの志

 2004年入局4年目も6ヵ月を迎える時点で、当時飯田橋にあった東京警察病院形成外科への転勤を突然命ぜられました。東京警察病院形成外科は、日本の形成外科のパイオニアであられ、初代東京大学形成外科教授の故大森清一先生が開設された歴史ある形成外科ということはよく知っておりましたので、嬉しい反面緊張を覚えました。当時、東京大学形成外科には頭蓋顎顔面外科手術はありませんでしたので、マイクロサージャリー技術だけではなく頭蓋顎顔面外科も勉強できるという意気込みで赴任いたしました。当時の形成外科部長は大森喜太郎先生であり、マイクロサージャリーのみならず頭蓋顎顔面外科・美容外科でも有名な先生でした。ここで初めて、顔面骨を主に取り扱う頭蓋顎顔面外科と皮膚・軟部組織を主に取り扱う美容外科が密接な関係にあることを教えていただき、これらの多くの手術の助手に入らせていただきました。

 2006年に大森喜太郎先生が退職され秋月種高先生が部長になってからは、様々な頭蓋顎顔面骨の骨切り手術をご指導いただき、次第に難しい骨切り手術を担当させていただくようになり、次第に一流の頭蓋顎顔面外科医:クラニオフェイシャルサージャンへの志が芽生えました。小児の頭蓋顔面外科に関しては、北九州にある産業医科大学脳神経外科に小児の頭蓋骨形成術、頭蓋骨骨延長術などの手術がある際に、度々、秋月先生と共に手術に同行させていただきご指導いただきました。警察病院といえども、頭蓋顎顔面外科手術の経験数は限られていたため、もっと多くの様々な頭蓋顎顔面外科手術を留学して勉強したいという思いが次第に強くなりました。

 大森喜太郎先生にご相談したところ、快く3つの国際的にも有名なクラニオフェイシャルセンターにフェローシップの推薦状を書いていただきました。

 留学の時期は、ちょうど東京警察病院が飯田橋から中野に移転して本格稼働する前に休職をいただいて2008年の約1年間としました。

 ビザ取得の件も煩雑でしたので、英国 バーミンガム小児病院 Craniofacial UnitのHiroshi Nishikawa先生の所に2ヵ月、仏国 パリ・ネッカー小児病院 Craniofacial UnitのDaniel Marchac先生、Eric Arnaud先生の所に3ヵ月、 中国 上海第九人民医院 Craniofacial UnitのXiongzheng Mu先生の所に4ヵ月、それぞれ留学させていただきました。これらの、留学先は各国を代表するクラニオフェイシャルセンターですので、ほぼ毎日、小児の単純・症候群性頭蓋骨縫合早期癒合症の頭蓋形成術、頭蓋・中顔面形成術があり、全てのセンターでフェローとして手洗い助手として手術に参加しながら直接術者から指導を受けられるという大変恵まれた環境でした。また、このセンターで執刀されておられる先生はみなプライベートクリニックでは美容外科手術にも携わっており、私もクラニオの手術後に同行させていただき、そこでの全ての美容外科手術にも助手として入らせていただき、顔面骨以外の目、鼻、フェイスリフトなど、非常に多岐にわたる顔面美容外科手術についても勉強する機会が得られました。帰国後も、幸い東京警察病院形成外科・美容外科に勤務が許され、2009年に形成外科専門医を取得しました。

顔面神経再生の基礎研究

 2009年帰国後、遊離筋肉移植術による顔面神経麻痺に対する笑いの再建術のさらなる治療成績向上を念頭に、顔面神経再生の基礎研究のため、東京女子医科大学口腔外科から警察病院に顎顔面手術の勉強にいらしている佐々木亮先生の勧めもあり、東京女子医科大学大学院先端生命医科学系専攻再生医工学分野に入学しました。ティシュエンジニアリングと再生医療の両方の技術を神経再生に導入することで、顔面神経再生を促進することができないかとの発想からの、ティッシュエンジニアリング技術「細胞シート工学」で有名な岡野光夫教授にご指導をいただきながら、臨床の合間に4年間研究を行いました。ここでの研究では、脂肪幹細胞を埋め込んだ人工神経が自家神経とほぼ同等の顔面神経再生機能を有することをラットの顔面神経欠損モデルへの移植実験で示すことができました(Watanabe Y, et al: J Tissue Eng Regen Med 11:362-374, 2017)。現在、この脂肪幹細胞を用いた顔面神経再生の研究は東京女子医科大学形成外科の松峯元先生のグループが継続してご研究されており、新たな知見を発表されておられます。

頭蓋顎顔面外科専門医・美容外科専門医(JSAPS)の取得

 形成外科専門医取得後の4年間は、大学院での基礎研究と並行して、顔面の臨床診療のさらなる向上を目指して、日本頭蓋顎顔面外科学会と日本美容外科学会(JSAPS)の専門医取得のために研鑽を重ね、2014年に双方の専門医資格を取得いたしました。特に、美容外科のトレーニングでは、東京警察病院形成外科OBの倉片優先生(クリニカ市ヶ谷院長)の下でご指導いただき、Le Fort I型骨切り術、下顎矢状分割骨切り術などの頭蓋顎顔面外科技術を小顔形成術などの美容顔面輪郭形成に応用した高度な美容外科手術を習得することができました。また、念願だったクラニオフェイシャルサージャリーの父Paul Tessier先生が中心になり創設された国際頭蓋顔面外科学会(ISCFS;International Society of Craniofacial Surgery)のactive memberにも認めていただくことができました。

 この2つの専門医取得を契機に、自分なりに理想と考える形成外科・頭蓋顎顔面外科を築いていこうと意識し始めるようになりました。

最高の頭蓋顎顔面外科治療サービスの提供を目指して

 現在、私は東京警察病院形成外科・美容外科医長として、患者さんに満足いただける最高の頭蓋顎顔面外科治療サービスの提供を目指して日々格闘しております。

 頭蓋顎顔面外科治療・顔面神経麻痺治療に関するインターネット上の有益な情報は非常に少ないため治療が必要な患者さんが大変困っているという声を受けまして、2015年に、顔面神経麻痺の治療と顔面変形などの治療の情報をそれぞれまとめた2つのサイトを開設し啓蒙活動に努めております。顔面骨骨切り・顔面神経麻痺治療などにご興味のある方はご参照ください。

 上下顎骨切り術などの顔面骨骨切り術は最低週2件程度のペースで行っておりますので、気軽に手術見学(毎週火曜日、金曜日、土曜日)にいらしてください。

 日本での頭蓋顎顔面外科治療サービスの質の向上を共に目指して参りましょう!

Be a Craniofacial Surgeon

坂本好昭先生

坂本 好昭

慶應義塾大学医学部形成外科

日本頭蓋顎顔面外科学会専門医
(本学会代議員)
(卒業後13年)

専門にしていること

 形成外科の醍醐味は、失われたものを作ることだと思う。失う前の健康だったときをゼロとすると、失うことで、それがマイナスになり、そしていかにゼロに近づけるか、それが形成外科医の腕の見せどころだ。

 その場所が顔になれば、さらにレベルは上がる。顔は体の中で唯一衣服で隠すことができない。そして、手術の結果の良し悪しを決めるのは患者自身である。結果に満足してくれなければいじめや引きこもりなど、その人の一生を左右しかねない。

 今、僕が専門にしているのは骨格である。顔面骨骨折や、脳神経外科から依頼の頭蓋再建も行うが、メインとしているのは頭蓋縫合早期癒合症の治療をはじめとする先天疾患である。簡単に言ってしまうと病気の人たちに行う美容外科手術だ。ただし一般の美容外科手術とはわけが違う。美容外科がゼロからプラスに持っていくのに対して、マイナスからゼロを通り越してプラスにまでしないといけない。普通の生活を送ることができるようにしてあげること、それが使命である。

 この分野を専攻する形成外科医はCraniofacial surgeonと呼ばれ、形成外科の中でも特に高い技術が必要とされることもあり、世界的には一目置かれた存在である。まだまだ駆け出しではあるが、形成外科に入局してやっと10年になろうとする者がこの道に進むようになった経緯をお話ししたい。

運命の出会い

 うちの大学の講義の出席率は昔から悪い。1科目で5~10人が関の山だ。ただ講義に出ていないのに試験には通る。みんなで協力して講義ノートを作成するからで、そのため、1人ずつに担当の科目が割り当てられる。

 そんな中で担当することになったのが形成外科の講義だった。その講義の中で見た頭蓋縫合早期癒合症とその治療法のbamboo法に衝撃を受けた。1歳くらいの子にこんなことをするなんて…と思った。さらに次のスライドで出た術後結果に愕然とした。手術の前は学生の自分が見ても病気とわかるものだったが、術後結果はまったくフツーだった。一目惚れだった。この瞬間に将来進むべき科が決まった。

修業時代(専修医時代)

 クラニオの手術は毎週どころか毎月あるわけではない。そのせいもあるのか、その手術があるときは手術室の空気が一気に張り詰めた。それだけ特殊な手術なのだと実感したし、手術時間は長いし、出血も多い、形成外科が不慣れな全身管理が必要だったり、時に感染を起こして大変な経験もした。ただ、それ以上に目の前で、頭蓋骨を切り、どこかに設計図があったかの如く、何の迷いもなく、新しい頭蓋骨が創造されていく工程は面白かった。

 その後、関連病院に出向となり、5年目の人事でも同じ病院だった。職場環境や症例も申し分なく(もちろん頭蓋縫合早期癒合症の患者はいないが)、このまま永勤するのだろうと思っていた。そんな折、手術を一手に引き受けていた当時の准教授(僕の師匠)の脳梗塞と定年前の退官が決定した。それに伴い、跡次ぎとして形成外科専門医も持っていない身にも関わらず、大学病院に帰局という突然の異動が決定した。

クラニオ初執刀、留学、そして今

 医学部時代から目標としていたものに早くも到達できるという喜びよりも、これまでクラニオを執刀したことがないという不安のほうが勝っていた。幸か不幸か、帰局した当時は新患はおらず、基本的には師匠の患者の術後経過だけだった。

 そして患者はやってきた。手術時間10時間。終わった後、体はぐったりしているのに、頭はアドレナリンが出まくっているのか一睡もできなかった。その反動で翌日ぐったり…。結局、この年は全部で3例の手術を行った。

 翌年には術後経過を診ていた患者の中顔面骨切り術も経験した。手術時間も1日がかりだった。患者、家族はその結果に満足してくれているから、形態面から言えばよい結果だった。ただその結果を得るための方法は不合格だったと毎回反省した。

 こんな状況、心境でだらだらと続けるのはよくないと、craniofacial surgeryの生まれたフランスへの留学を決めた。そこでは毎日、craniofacial surgeryが行われており、日本では特殊だと認識していた手術が、そこでは日常の、ごく一般的な手術として扱われていた。

 帰国後、手術時間は一変した。同じ手術が3時間だった。これには自分でも驚いた。自分以上に周りの医師、看護師が驚いていた。いい意味で力の抜き方がわかったのか、手術が終わった後の変な興奮もなくなった。

Craniofacial surgeonになるために

 同じ質問を留学先のボスや、国際学会であった方々に聞いたことがある。みな決まって同じ答えだった。精神的にタフにならなきゃいけないと。

 変かもしれないが、レントゲンをとるまで、病気じゃないことを願っている。できることなら小さな子たちにこんな手術はしないほうがよいとさえ思っている。それでも病気とわかったときには全力で治療するのだが、craniofacial surgeryを突き詰めるほど、その言葉が身に染みる。

 タフになるためには支えが必要である。それはチームの存在である。技術の鍛錬と同じくらいにチームの人選は考えた。こだわったのは同世代ということ。あまりに歳が離れているとお互いの意見が言い合えないからだ。このチームで5年目になるが今もメンバーの変わりはない。科の壁を越えたお互い何でも言い合える存在。自分でチームを作り、そしてそのチームが成長していくのは面白い。

笑顔という麻薬

 留学前は術後、患者家族が笑って喜んでくれているとうれしかったが、負い目があったのだろう、素直に受け入れられなかった。今は、その笑顔を見ると、やってよかったと心から思えるようになった。また、もし同じ患者が来たら助けてあげようと思える。

 術後、年1回の定期通院で、その1年間のことを楽しそうに報告してくれる。「あんなに引きこもりだったのに、今は楽しそうに毎日学校に行きます」と喜んでいる両親。ときには「恋人ができました」というサプライズもある。こんな何気ない普通の生活を患者が送れているという喜びを、自分1人ではなく、チームみんなで分かち合えることが何よりもうれしい。このcraniofacial surgeonという名のチーム医療はくせになる。

Craniomaxillofacial Surgeryの魅力

神戸未来先生

神戸 未来

名古屋大学形成外科

(卒業後10年)

-Craniomaxillofacial Surgeryの魅力-

 紀元前のインドでは、鼻削ぎ刑で失った鼻を、額の組織を用いて再建していた記録があります。もっと古いものでは、紀元前600年のエジプトで、鼻の手術についてヒエログリフに記載が見られます。傷ついたり、欠損した顔面の形態を治療することは、その人の自尊心や社会性を取り戻すという古代から現代まで変わらない哲学があり、治療するべき重要な対象であったのだと思います。私が形成外科を志す選択した時も、奥底にこのような世界観への憧れがあったのかもしれません。

 私の勤務している名古屋大学医学部附属病院では、形成外科の仕事の中でもマイクロサージャリーを用いた再建手術が多く、毎週のように頭頸部腫瘍の患者さんに対する再建手術を行っています。欠損を組織で補填することはもちろんですが、いかに術後に社会復帰をしてもらえるかを考え、機能や整容性に関して考え始めるときりがなく、顔面を扱うということがいかに難しいかを思い知らされる日々です。しかし、そこにcraniomaxillofacial surgeryの奥深さがあり、面白さがあるということが最近少しずつわかってきたように思います。特に頭頸部再建の患者さんを受け持つと、食事や構音の問題で二次修正を必要とすることがあります。また、骨切りや骨延長を必要としたり、顔面のバットレス、義眼床、外鼻や耳介の再建を必要としたりすることもあります。このように患者さん一人一人に対し、問題点を挙げてあれこれ考え、ディスカッションをしながら治療を行っていくことは面白く、一つ一つの選択、一つ一つの合併症が目に見える結果に直結していくことは他の外科にはない難しい点であると同時にやりがいのある点だと思います。問題が幸いにして解決して、引きこもっていた患者さんが顔を隠さず生活できるようになったり、旅行や祝い事などの写真を見せてくれたりした時は感無量です。

 Craniomaxillofacial surgeryの世界は広く、頭頸部再建だけではなく頭蓋顎顔面の骨切りや小耳症の再建、口唇口蓋裂、顔面神経麻痺など、一つ一つの分野が奥深くそれぞれエキスパートの先生がいらっしゃいます。私にとってはこのような色々な分野の扉をのぞき、その治療に携わっている先生方と話をして世界を広げることは大きな喜びです。今後はIT技術の発達に伴いシミュレーションやナビゲーション支援下手術が盛んになっていくと思われ、craniomaxillofacial surgeryの世界はさらに奥深く広いものになっていくと思われます。これから形成外科を志す先生達にもぜひこの分野に入っていただければと思います。

-女性医師の目線からひとこと-

 顔面の先天異常を有する患者さんの親御さんの気持ちや、顔面の問題でコンプレックスを持つ患者さんの気持ちなど、患者さんが訴えにくいナイーブな問題点を察知し、理解する上で、女性特有の感性や経験が必要とされる分野であると思います。口唇口蓋裂のお子さんを持つ母親から、生後1ヵ月のお宮参りに行けなかったけれど、手術後に100日祝いの写真を撮りに行けたと喜んでいただけたとき、どれだけ母親にとってこの手術が救いになったか、また口唇口蓋裂の治療がいかに患者や家族の将来に影響し得るか、自分自身はどこまでそこを理解してあげることができたのかと考えさせられました。また、顔面神経麻痺や顔面の多発外傷後でマスクを外せなかった女性が、手術やリハビリを経てマスクなしで外出したり、趣味や特技に打ち込んだりして、自分らしさを少しずつ取り戻していく様子を見ることができるのは喜びが大きい一方で、症例によっては変形に対して修正を希望しても経過が悪く、望む通りにいかないこともあります。結婚式の前に上顎癌手術後の顔の変形を治したいと希望するも再発によりかなわなかった患者さんのことを思うと、形成外科医としても、同じ女性としても、もっとできたことがあったのではないかと、今も心が痛みます。

 苦悩と向かい合い、悩みながらも前向きに進む患者さんやご家族の姿に自分も刺激を受けながら携わっていくと、患者さんの心の声に耳を傾けることが必要であると痛感します。ぜひ多くの女性の先生にこの分野に興味を持っていただき、女性医師ならではの目線から一緒に治療を考えていければと思います。